正義が悪に負ける時
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
“人違いだ”
僕はまず最初にそう思った。
こんな所にいるはずがない。
今週の彼女のシフトは夜勤だったはず。
だからこんな所にいるはずがない。
そう思いながら後を尾けた。
エレベーターに乗り込んでしまい、
そのまま姿を見失ったが、
この時の僕は何を疑心暗鬼になっているんだと自分を恥じた。
フユミが男と腕を組んで歩いているはずが無い。
この日、夜勤を終えたフユミはちゃんと朝に帰宅した。
「お帰り。」
「ただいま~。」
「じゃあ行ってきます。」
「行ってらっしゃいっ。」
帰宅もそこそこに、いつものように出社する僕を玄関で見送ってくれた。
もう1度振り返ると、
笑顔を見せて手を振ってくれた。
・・・・その笑顔を見て・・・
“人違い”だったのか分からなくなった。