この溺愛にはワケがある!?

出会い

日記は高校一年、二年と続き七重の綴る文字の中に『小夏』という文字は毎日出てきた。
二年になってもクラスが一緒の二人は、相も変わらず仲が良かったようだ。
だが、二年の終わり頃の日記に更なる登場人物が現れた。
それは美織の良く知る人物である。

『十二月二日

料理教室を終え、小夏さんと別れてからの帰り道、私は男の人同士の喧嘩を目撃しました。
人通りの少ない路地裏での乱闘。
とても恐ろしくなり足も震え、気付かれないようにそっと建物の影に隠れていました。
やがて数人の男達が去ると、一人の男が建物を背にぐったりとしています。
私は急いで無事を確かめました。
意識はあり、受け答えもしっかりとしています。
警察を呼ぶからと言う私に、その男はやめてくれ、と一言いいました。
どうしてかは聞きませんでした。
その目があまりに真剣だったから、素直に従ってしまったのです。
私は怪我をしている箇所に持っていたハンカチを当て、簡単に手当てをしました。
その時、男のお腹が大きな音を立てたのです。
私は料理教室で作った物を差し出しました。
一瞬驚いた顔をして頬を染め、男はありがとう、と言ったのです。


十二月三日

今日、昨日と同じ場所、同じ時間にまたその男に出会いました。
私はとても驚きました。
男は昨日泥だらけで倒れていた姿とはまるで違う、綺麗な背広を着ていたのです。
「黒田行政」男はそう名乗りました。
昨日貸したハンカチを返しに来たと、そして昨日の食事のお礼をしたい、と言いました。
礼などかまわない、そう言う私の手を強引に引き、彼は近くの喫茶店に私を連れていったのです。
彼は私にショートケーキを頼んでくれました。
甘いものは……大好きです。
だけど、見つめられながら食べるのは正直苦手です。
彼は何故かじっと私を見ていました。
どうしてなんでしょう……。


十二月六日

彼はまた同じ場所にいました。
今日も素敵な背広を着て微笑んでいます。
ですが、何か後ろに隠しているようで両手が見えません。
すると突然目の前に花束が。
彼は言いました。
「七重さん、私とお付き合いをして下さいませんか?」と。
私は今まで男性とお付き合いをしたことなどありません。
ですから、お付き合いとは何をするのかもわかりません。
それを正直に伝えると、彼は笑って言いました。
「一緒にいるだけでいいんだよ」と。
なんだ、そうなんだ。
と、私は安心してはいと答えました。
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