この溺愛にはワケがある!?

絶対権力者の動揺

ファンタジーワールドの本館は思ったよりも洋風だった。
どれをとっても全てがとてもお高そうである。
外観のレンガも、ガラス窓も窓枠も、触ってキズでもつければ一生働いても返せないくらいの値段では!?
……という気がして、美織はうっかりバッグ等が当たらないように、警戒しながら玄関前に立った。
目の前にあるザ・アンティークの重厚な玄関の扉は、その中でも更にお高そうである。
それだけで、美織の家が三軒くらいは建ちそうなほど高い(に違いない)。
そんな平屋三軒分の扉を、隆政は片手で乱暴に開けた。

「ただいま……あ、牧さん、爺さんは?」

迎えに出たのは50代くらいの女性で、白いエプロンをかけていた。

「坊っちゃん、おかえりなさいませ!」

(坊っちゃんっ!?)

美織の声は聞こえていない筈なのに、隆政は体ごと後ろを振り返った。
彼の顔は真っ赤になっている。

(きっと、聞かれたくなかったんだ……坊っちゃんって……くふっ、坊っちゃんって!!)

「あ、や、これは……」

しどろもどろの隆政に、追い討ちをかけるように牧と呼ばれた女が言った。

「坊っちゃん、もうなんとかしてください!奥様ったら理由も言わずにこんなこと……あ、あなた!坊っちゃんの婚約者の方ね!」

牧は美織を見て身を乗り出した。

「あ、はい。加藤美織と申します」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします!ありがたいことですよ、坊っちゃんみたいなろくでもない男にこんな堅実そうなお嫁さんが来てくれるなんてねぇ~。これで、私も安心して冥土に行けるってもんです」

(ろくでもないって言った!?どう見てもお手伝いさんのような人なのに、坊っちゃんに暴言吐きましたよ!なんて面白い!!)

美織はもう堪らず声を上げて笑った。

「ちょっと!牧さん、ろくでもないはやめてくれよ。それと、あれほど坊っちゃんっていうなと言ったじゃないか!!」

「あらあら、そんなこといったかしら?最近ボケてきちゃってー」

と、牧は華麗にしらばっくれた。

「……全く……みおも、いつまで笑ってるんだ!?」

怒りの矛先を失った隆政は、今度は美織にターゲットを絞る。

「だってー、坊っちゃんって可愛いじゃない?私も坊っちゃんって呼んでいい?」

「いいわけねぇだろっ!」

真っ赤になって叫ぶ隆政を、牧と美織がクスクス笑う。
そんな和やかな雰囲気は、家主の登場によりお開きになった。

「おはよう、美織さん、よく来たね!」

頭上から声がかかり見上げると、そこにいつもとは違うラフな装いの行政がニコニコと笑っていた。
美織もおはようございます、と頭を下げる。

「あらまぁ、坊っちゃん、完全にスルーですわね?」

と言う牧の言葉に、

「だろ?俺の嫁だって言ってるのに」

と、隆政が呆れて答えた。
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