この溺愛にはワケがある!?

お婆様と私

「失礼……します」

美織はドアを開けながら恐々と挨拶をする。
離れの外観はくすんでいたが、中へ入るとそれは一変した。
暖色系のランプが煌々と輝き、冬だとは思えないくらい暖かい。
そのためか胡蝶蘭が生き生きと勢い良く咲いている。
さながら温室のようだと、美織は思った。
陶器が割れたような音がしたと思ったのだが、その痕跡は全くなくレンガ色の玄関タイルが汚れなく輝いている。
そして、胡蝶蘭に囲まれた洋風の広い玄関に、スッと姿勢を正し小夏は立っていた。

美織は隆政の母の目元が彼にそっくりだと言った。
だが、小夏のそれはもう本人かと思うくらいもっと似ていた。
村上総合病院の院長が「男前」といったのは本当だったのだ。
そして、女装の隆政もあながち間違ってはいないな、と心の中で思っていた。

「美織さん、どうぞ」

小夏はやんわりと美織を促した。
その気品足るや!!
なるほど、七重が生粋のお嬢様と日記に綴っただけのことはある。
一挙一動に無駄がなく美しい。

「あ、ありがとうございます」

美織は少し気後れしながら小夏の後に続いた。
案内されたのは小さな洋風の居間で、全体的に白で統一されている。
本宅の黒のイメージと正反対だ。
白いソファーに促され、美織は借りてきた置物のようにちょこんと座る。
その様子を見て小夏は何故かとても優しい目をした。

「わたくしにお話があって来たのでしょう?でも、出来れば先にわたくしの話から聞いて頂けないかしら?」

「え?………ええ、はい。もちろんです」

思ってもみなかった言葉に、美織は一瞬頭が真っ白になった。
黙りの小夏に美織が思いを話し、小夏からの返答を待つ、という筋書きが頭の中で出来ていたからだ。
そんな美織の目算などどこ吹く風とでもいうように、小夏は滔々と話し始めた。

「わたくしはね、高校の時にあなたのおばあさま、七重さんとお友だちになりましたの」

「はい、知っています」

小夏は一つ頷いた。

「お料理教室も一緒でね。わたくしも七重さんも唐揚げが得意なのよ?」

「あ!」

「ん?どうかなさって?」

「いえ、あの、隆政さんが私の唐揚げとお母様の唐揚げの味が似てるって……お婆様の手料理の味とも似てるって言っていたので、それはもしかしたら……」

美織のその言葉に、小夏はキラキラとした眼差しを向けた。

「ええ、ええ。わたくしも春子に料理を教えましたもの。あなたも七重さんに教わったのよね?」

「はいっ!全て祖母に教えてもらいました」

小夏はキラキラした眼差しを少し遠くに向けた。
そしてそのまま、また語る。

「半年前、わたくし、行政さんへのお手紙を牧さん……あ、お手伝いの方なんだけど。その牧さんから預かってね。全てお仕事の手紙だと思って書斎に持っていったの。そうしたら、何故か一枚だけ机から滑り落ちてしまって……不思議に思って差出人を見たわ。そうしたら……裏には加藤七重、と書いてあったの」

「はい」

その辺の事情は知っていたが、話を聞くと言った手前、美織は横槍を入れずに聞き役に徹する。
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