この溺愛にはワケがある!?

ロイヤルスイートルーム!

それまでの苦難の道程が嘘のように、あっさりと結納は終わった。
一体何の為にあんなに振袖を着たのか……という無粋なことはこの際考えないことにしよう。
と、美織はほっと胸を撫で下ろした。

何もかもが初めてな美織は、世の中の結納がどういったものか良く知らない。
日本列島津々浦々、地域により様々な形の結納があるのだろう。
だが黒田家の結納は、新郎側(祖父母)が新婦に好きなものを送りつけるだけの行事であったようだ。
堅苦しくなくて良かった、と思う反面、その目録の重さにぷるぷると持つ手が震える。
申し訳なさに何かこちらからもお返しを、という美織の提案は素敵な笑顔で拒否された。
確かにお金で買えるものなんて、黒田家の皆さんは全て持っている。
公務員の安月給+預貯金で買えるものなど彼らの持っている物の足元にも及ばない。
美織はとりあえず快く貰っておくことにし、後はなんとか気持ちで返して行こうと思っていた。

そして、夜はもちろんロイヤルスイートなるお部屋で「七重を偲ぶ会」である。
『ロイヤルスイート』
ホテル客室フロア最上階を半分ほど使ったお部屋(お家と呼ぶ方がいいかも)は夜通しかくれんぼをしても見つからないくらいの広さがある。
四人はその部屋のだだっ広いリビングに集まった。
美織の両隣には行政と小夏、正面に隆政。
どうしてそうなったかわからない席の配置だが、行政も小夏もそんなこと全く関係ないというようにガンガン美織に話しかけてくる。
二人はたいして面白くもない美織の話に、笑顔で相槌を打ちながら熱心に聞いていた。
特に七重の話になるともう目の色が変わり、両隣からぐいぐい挟まれて揉みくちゃになってしまうほど。
そんな美織達を、隆政は身じろぎもせずにじっと眺めていた。
あまりに何も言わないので、寝てるんじゃないの!?と勘繰ったほどだ。

やがて満足したのか、行政も小夏も二つ向こうの寝室にお休みーといって消えていった。
因みに寝室は三部屋ある。
和テイストな畳の部屋、洋風のダブルベッドが二つ置かれた部屋、洋風のキングサイズベッドが置かれた部屋。
もともとロイヤルスイートは進水式で来る御客様用だ。
先日の龍徳海運の劉社長一家や、海外の御客様が家族で来日するときにここを使うらしい。
その為寝室も多めになっている。
行政達はダブルベッドの部屋を使用するらしいので、必然的に美織達は残るどちらかになる。
ただ、普段とは違う場所で寝てみたい(せんべい布団以外で)美織にはキングサイズベッド一択であった。
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