この溺愛にはワケがある!?
そんな自分の思いは、考えているだけで恥ずかしくなってくる。
隆政はどうしようもなく火照る顔や、悲鳴を上げそうな心臓を隠すために、全然関係ないことを口走ってしまっていた。

「………腹が空いたな……」

美織は唖然としていた。
更に弁当が食べたいと言い出す隆政を、一生懸命止める。
だが当の本人は呑気なもので、何の根拠もないのに『大丈夫』のような気がしていたのだ。

結局美織が折れ、隆政のリハビリに付き合うことになった。
いろいろ工夫して弁当が見えないようにしたり、様子を伺ったりと、美織は隆政が思う以上に心を配ってくれた。
そんな中でもじんわりとやってくる冷たい感覚。
恐怖に体を固くしていると、そっと暖かい手が伸びてきた。
美織の手だ。
柔らかくとても優しい手をしている。
そこから溢れる暖かさに、冷たい感覚は何処かへ去ってしまっていた。

(この手があればもう大丈夫だ。この手を信じていれば俺は生きていける)

恥ずかしそうな美織を見つめ、隆政は愛しくて堪らなくなっていた。


バラ園から2日後、午前の会議が終わると隆政は出口付近で行政に声をかけられた。

「最近美織さんと良く出掛けているそうだな」

「ああ。はい。先日もバラ園に行ってきました」

「そうか、それはいい。この調子でなんとか美織さんがお前との結婚を考えてくれればいいがな」

やはり、美織の名前を呼ぶ行政は上機嫌だ。
反対に隆政は気分が悪い。
人の嫁(予定)を軽々しく呼んで欲しくない。
特に行政には。
だが、それを表面に出すほど隆政も愚かではない。

「そうですね。早くそうなってもらえるように努力します」

(それにはまず、改めて交際を申し込まないと、だな。まだ友達止まりだから)

隆政は自分に言い聞かせるように胸の中で繰り返す。

「成政も帰ってきてからすぐ美織さんの所へ行ったらしいぞ。負けるなよ、隆政」

行政は突然爆弾を投下した。

「………………え、爺さ……社長!成政が帰ってるんですか!?」

「ああ。昨日な」

「何で、みお、美織さんの所に?!」

「何でって……言っただろう?美織さんが幸せになるならどちらでもいいと」

「今俺といい感じなんです!!邪魔しないで下さい!!」

いい感じ、とは自信を持って言えないがここは引けない。

「そうか、じゃあなんの問題もないじゃないか?ははっ、頑張れよ。私はお前ならきっと美織さんを幸せに出来ると信じているぞ」

(ふざけるな!折角これから交際を申し込もうとしていたのに……いや、今はそれどころじゃない!市役所へ、みおの所にいかないと!!)

幸いその日の重要な仕事は午後からの会合だけだ。
隆政は急いで駐車場へ向かった。

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