この溺愛にはワケがある!?
第二章
年の瀬が近づくと、世の中は意味もなくせわしくなる。
それは一般家庭でも一般企業でも、市役所でも同様だ。
今年の内にやるべきことをやっておきたい市民の皆さんは、十二月になると何故か親の敵のように来庁する。
その為一番から四番までの窓口に加え、この時期は前田課長も加わって窓口業務を遂行するのだ。

「疲れました……初めての十二月がこんな激務だとは……」

昼休憩時、寧々が突っ伏して言った。

「まぁ、毎年のことよね……私が来て二年目で、加藤さんが三年目か……あっ、もしかしてそろそろ移動の希望出すの?」

芳子がハッとして美織を見た。

「うーん、悩んでるところです。慣れてるしここの方が楽なんですよねー。でも、辞令が出ればしょうがないですけど……」

「一から違う仕事覚えるのめんどうだもんね。でも早い人は三年で移動になるし。一応構えとかないとね?」

「そうですね。因みに福島さんは一番最初は何課でした?」

「教育委員会」

「あー、なるほど。全く畑違いですねー」

芳子は大きく頷いた。

「だからねー大変だったわよ。辺境の島からいきなりネオンギラギラな風俗店に連れて来られたみたいで」

(それはどんな例えなのよ……)

美織は口に出さなかったが、寧々は能天気に芳子に聞いた。

「どういう意味なんです?それ?」

芳子はニヤリと笑うと説明を始めた。

「ど田舎から上京した小娘が、都会のキャバクラに放り込まれるようなものかしら?」

「うーん……わかるような、わからないような………ん?でも、ということは……ですよ?私と美織さんはいきなり都会のキャバクラに放り込まれたと!?」

寧々は大袈裟に目を丸くして見せた。
その様子に美織は吹き出しそうになるのを必死で堪える。
寧々の言動はいつも斜め上をいく。
昼食時でも、飲み会でも、明るく話を盛り上げるのは彼女の仕事だ。

「そういうこと。だから、擦れないでね。いつまでもピュアな寧々ちゃんでいて下さい」

と芳子は意味深に笑った。
クールな主婦はいつも期待を裏切らない。
寧々のボケに上手く皮肉めいたツッコミをいれるのだ。

「もちろんです!!私ほどピュアな公務員は他にはいませんからねっ!」

まぁ、寧々も負けてはいないのだが。
と美織は目を細めた。

「ていうか、美織さんはもう働かなくてもいいんじゃないですか??」

寧々の矛先が急に変わり美織は激しく噎せた。
おそらく寧々が言いたかったのは、美織が語った数日前の焼き鳥屋での一件だろう。
隆政と付き合うことになったと、その一件の翌日寧々には話していた。
また、その翌日には芳子にも。
プライベートなことをペラペラと喋る必要はない。
美織はそう思うタイプだが、こと隆政との件については職場の皆様に迷惑をかけっぱなしでいる。
だから一応報告までに「そういうこと」になったと伝えたのだ。
ポンコツや何だと散々悪口を言っておきながら、突然付き合うことになったなんてどう思うだろうと、驚かれるのを覚悟していた。
だが意外にも寧々と芳子は驚かなかったのだ。
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