この溺愛にはワケがある!?

布団を敷くタイミング

午後八時。
食事が終わり、片付けも終わって、二人は居間でゆっくりお茶を飲んでいた。

「あー、もう腹一杯だし、旨かったし、楽しかった!!天国だよ、みお、今日はありがとう」

「いえいえ、お粗末様でした。簡単なものでごめんね」

「謝らなくてもいい!少しも悪くないし、むしろもっと威張ってもいいくらいだ」

と言われても、謝ってしまうのは挨拶というか職業病みたいなもの。
来庁者に何か言われれば、癖のように口をついて出てしまうのだ。

「うぅ、気を付けるようにする……」

少し項垂れつつ言う美織に、慌てて隆政がフォローを入れた。

「いや、あの、それは悪いことじゃないんだ。ただ、俺にはもっと……素で接してもらいたいんだよ」

「素?」

「そう。もっとワガママ言われたいし、振り回してもらいたい」

(………M……なのかな?)

不審そうに見る美織に気付いた隆政は大声で言った。

「Mじゃないぞ!!絶対に!」

相変わらず鋭すぎる隆政に驚きつつ、そのムキになる様子に美織は高らかに笑った。
心外だと言わんばかりの隆政はフンッと鼻息を荒くし、冷めてしまったお茶を一気に飲み干した。

そうやって他愛のないことを言い合っていると、居間の柱時計が九つ鐘を鳴らす。
それに目を向けた隆政がハッとして美織を見た。
帰ろうとする人間の挙動は何となくわかる。
出された湯飲みを真ん中に寄せ、胡座をかく姿勢から正座に変わる。
そして……まっすぐこちらを見て……

「それじゃあ、もう遅いし今日は帰るよ。ありがとう」

と、笑った。

そんな無邪気な隆政に、美織も『今日はとても楽しかった』……と告げようと口を開きかけた。
来る前はいろいろ悩みすぎてふらふらになり、家に招いたことを少し後悔もした。
だがいざ隆政が来てみれば、こんなに自然体で過ごせる自分がいる。
その思いを目の前で微笑む彼に伝えよう。
と思ったのだ、が!?
何と言うことでしょう………。
美織の口は、本人が考えるよりも正直だったようで、

「え?帰るの?」

と名残惜しそうに言ってしまっていた。
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