この溺愛にはワケがある!?
「イチャイチャしないで下さいよ。美織さん、はい花束」

突然後ろから声が聞こえ、同時に項にゴツンと固いものが当たった。
振り向くと成政が赤い薔薇の花束を逆に持ち、その根元の部分を美織の項に当てている。
そして呆れたように口を開いた。

「隆政、一応仕事中ですよ?」

「いいじゃねぇか。俺の仕事は接待じゃねぇしな。ここはお前の領域だろ?」

薔薇の花束を受け取り、それを美織に手渡すと隆政は成政と至近距離で睨み合う。
インテリヤクザVS古典的ヤクザ。
なんだか新旧のヤクザ映画を見てるようで、美織はハラハラしながらも心が踊った。
祖母七重は見掛けによらず任侠映画が好きだった。
お婆ちゃんっ子だった美織もかなりそれに影響されている。
そんな美織の興奮した表情に気づき、隆政が真っ先に矛を納めた。

「ま、いいや。今日は気分がいいからな、荒事は無しな?」

「……はぁ……僕は別にケンカ売ってませんよ?ていうかね、いつもあなたが突っ掛かってくるんでしょう!?」

「そうだっけ?」

「そうですよ!全く!」

大きくため息をついた成政は今度は美織に向かって言った。

「美織さん。隆政に愛想が尽きたらいつでも声を掛けてください」

「あ、はぁ………」

どう考えても本気には聞こえない言葉に、美織も生返事で返しておく。
成政は満足したように頷くと、金持ちそうな来賓の中に自然に入り込み談笑し始めた。
それを見届けて隆政が美織に声をかける。

「何考えた?こんなところで殴り合いはしないからな?」

(こんなところ、じゃなかったらするの?)

美織の心のツッコミは、今度は確かに隆政に届いていた。

「どこであろうと大人なので殴り合いはしません、多分な」

「多分!?……ふふっ、それは残念」

「そういうのが好きだとは知らなかったな。今度バイオレンス系の映画でも行くか?」

隆政は感心したように言った。

「行く、もちろん、行く!」

「すげぇ、二回も言った。よっぽど好きなんだな。大人しめの美織さんが、ねぇ?」

と、からかうように覗き込む。
その近い距離にバクバクし始めた心臓に手を当て、美織は不自然に目を逸らした。

「ひ、人は見かけによらないって言うでしょ!?」

「うん、そういうとこ好きだよ」

「………そういうの……ほんっと、ごめん……不意打ち、ダメ、絶対……」

頭を抱える美織の前で、隆政はにへらっとだらしなく笑った。
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