訳あり結婚に必要なもの
電話は嫌い。
あたしは絶望的に耳からの情報が頭に残らないから。電話をしながらメモを取るが、聴いた内容を文字にする間にも次の話題に移っていることなんて、しばしば。

そんなあたしが自ら電話を掛けるだなんて、晴天の霹靂もいいところだ。それも仕事ではなく、プライベートな内容でなんて。

あとでぐずぐず悩んで後悔するより、周りに外堀を埋めてもらおうという姑息な考えによる電話だ。思い立ったら吉日!というあたしのモットーによるものでもある。

『もしもし?』

たっぷり10秒コールの末、電話は繋がった。電話の相手はやや恐る恐るといった口調だ。

「もしもし、あたし。美和(みわ)だよ」

最近、スマホデビューした母にLINE電話をしてみた。母の口調に力がないのは、慣れないLINE電話が果たしてちゃんと繋がったか疑問だったからだろう。

『ああ、美和ちゃん?よかった。ちゃんと繋がったわね』
「LINE電話の応答と拒否マークって間違えやすいもんね」
『そうそう!こないだもお父さんからの電話をうっかり拒否しちゃって』

お父さんとはあたしの父のこと。
今年定年を迎えた父のことを母は「お父さん」と呼び、母のことを父は「お母さん」と呼ぶ。お調子者の父と朗らかな母はいつも笑顔が絶えない素敵な夫婦だ。

『美和。どうしたの?何か用事があったんでしょう?』

さすがは母だ。あたしが用事もないのに電話をしてこないのをよく知っている。
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