流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
◇ 星空の一夜 ◇
どのくらいの時がたったのか、目を開けるといつのまにか林の中を進んでいた。
馬の歩みをゆるめて男がエミリアに声をかけた。
「大丈夫か。やけどはしていないか」
「はい、大丈夫です」
よく見ると、ドレスの裾が少し燃えていた。
しかし、そんなことを気にしている場合ではなかった。
エミリアは無事に逃げ出せたことに感謝していた。
「とりあえず、このあたりで休もう。馬に無理をさせるわけにはいかない」
二人を乗せて駆け抜けてきた馬の息はさすがに荒い。
エリッヒはいったん馬を下りて、エミリアを乗せたまま馬の綱を引いて道をはずれていく。
川のせせらぎが聞こえた。
木立を抜けたところは川辺の草原だった。
月明かりで川面がきらきらと輝いている。
エミリアに手を差し伸べて馬から下ろしてやると、エリッヒはそこら辺に落ちている木や草を集めた。
鞍に下げた袋から火打ち石とナイフを取り出して、手際よく火をつける。
「ここにいろ。もう少し燃えるものを集めてくる」
言われた通りに焚き火のそばに座り込んで小さな炎を眺めていた。
体が震えている。
思い切りしがみついていたせいで、体中がこわばって痛くなっていた。
エミリアは自分を抱きしめて震えを押さえ込もうとした。
しかし、そうすればするほど震えが大きくなっていく。
歯がカスタネットのように音を立てる。