流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
その時だった。
何かが焦げる臭いがした。
誰かが外で叫んでいる。
火事だ!
「おい、火事だってよ」
「なんだと、どうなってんだ」
「ほら、アニキ、煙だ!」
エミリアが目を開けると、うろたえた男達の間に煙が立ち上っている。
木造の床の隙間から煙が上がってきているのだ。
窓の外が明るい。
男達が顔を外に出して叫んだ。
「やべえよ、下が燃えてるじゃねえか」
「荷馬車が燃えてるぞ」
「アニキ、はやく逃げないと巻き込まれるっすよ」
子分達はあわてて梯子を下りていった。
大男がエミリアの腕をつかんで起き上がらせた。
梯子へ引きずっていこうとする。
「離しなさい!」
「馬鹿野郎、おまえも逃げないと死ぬぞ」
「あなたたちと行くくらいならここで死にます」
先に下へ逃げた子分達が叫んでいる。
「アニキ、だめだ、もうこっちも火が回ってる!」
ちきしょう、と叫んでエミリアを突き飛ばすと、大男が梯子を転がり落ちていった。
一人屋根裏部屋に取り残されたエミリアは煙を避けようと口を押さえながら窓辺に歩み寄った。
外で誰かが呼んでいるような気がした。
エミリア!
間違いない。
声が聞こえる。
おい、エミリア!
窓から下を見る。
男が腕を広げて叫んでいた。
「エミリア!」
「エリッヒ!」
「そこから飛び降りろ」
「無理よ」
「俺が受け止める。急げ!」
「だめ、こわい」
「死ぬよりましだ」
宿屋からは火だるまになった三人組が転がり出てきた。
村人達が水をかけてやったが、三人とも動き出すことはなかった。
エミリアは怖じ気づいて動けなかった。
エリッヒは馬を壁際につけて鐙に足をかけて立った。
「俺の手をつかめ!」
エミリアは男が伸ばした大きな手をつかもうと自分も手を伸ばした。
だが、届かない。
「飛べ! つかんでやるから!」
「こわい!」
「俺を信じろ。俺の目だけを見てろ!」
男の瞳が真っ直ぐエミリアを見つめていた。
納屋全体に火が回って炎の勢いは激しくなり、風にあおられて火の粉が舞う。
エミリアはできるだけ身を乗り出して男の手を求めた。
もう少しで手が届こうとした瞬間、熱風にあおられて馬が跳ねた。
男が女の手をつかんで引っ張る。
エミリアはあっと叫んで窓から転がり落ちた。
鐙に踏ん張ってしっかりと抱き留めたエリッヒがすぐさま鞍の上にエミリアを座らせる。
いななく馬を押さえ込んで自分は中腰のままエリッヒが馬を走らせた。
「俺にしがみつけ。落ちるんじゃないぞ」
エミリアは目をつむってしっかりと男にしがみついた。
エリッヒは闇夜を照らす火柱を背に、村からどんどん離れていった。
何かが焦げる臭いがした。
誰かが外で叫んでいる。
火事だ!
「おい、火事だってよ」
「なんだと、どうなってんだ」
「ほら、アニキ、煙だ!」
エミリアが目を開けると、うろたえた男達の間に煙が立ち上っている。
木造の床の隙間から煙が上がってきているのだ。
窓の外が明るい。
男達が顔を外に出して叫んだ。
「やべえよ、下が燃えてるじゃねえか」
「荷馬車が燃えてるぞ」
「アニキ、はやく逃げないと巻き込まれるっすよ」
子分達はあわてて梯子を下りていった。
大男がエミリアの腕をつかんで起き上がらせた。
梯子へ引きずっていこうとする。
「離しなさい!」
「馬鹿野郎、おまえも逃げないと死ぬぞ」
「あなたたちと行くくらいならここで死にます」
先に下へ逃げた子分達が叫んでいる。
「アニキ、だめだ、もうこっちも火が回ってる!」
ちきしょう、と叫んでエミリアを突き飛ばすと、大男が梯子を転がり落ちていった。
一人屋根裏部屋に取り残されたエミリアは煙を避けようと口を押さえながら窓辺に歩み寄った。
外で誰かが呼んでいるような気がした。
エミリア!
間違いない。
声が聞こえる。
おい、エミリア!
窓から下を見る。
男が腕を広げて叫んでいた。
「エミリア!」
「エリッヒ!」
「そこから飛び降りろ」
「無理よ」
「俺が受け止める。急げ!」
「だめ、こわい」
「死ぬよりましだ」
宿屋からは火だるまになった三人組が転がり出てきた。
村人達が水をかけてやったが、三人とも動き出すことはなかった。
エミリアは怖じ気づいて動けなかった。
エリッヒは馬を壁際につけて鐙に足をかけて立った。
「俺の手をつかめ!」
エミリアは男が伸ばした大きな手をつかもうと自分も手を伸ばした。
だが、届かない。
「飛べ! つかんでやるから!」
「こわい!」
「俺を信じろ。俺の目だけを見てろ!」
男の瞳が真っ直ぐエミリアを見つめていた。
納屋全体に火が回って炎の勢いは激しくなり、風にあおられて火の粉が舞う。
エミリアはできるだけ身を乗り出して男の手を求めた。
もう少しで手が届こうとした瞬間、熱風にあおられて馬が跳ねた。
男が女の手をつかんで引っ張る。
エミリアはあっと叫んで窓から転がり落ちた。
鐙に踏ん張ってしっかりと抱き留めたエリッヒがすぐさま鞍の上にエミリアを座らせる。
いななく馬を押さえ込んで自分は中腰のままエリッヒが馬を走らせた。
「俺にしがみつけ。落ちるんじゃないぞ」
エミリアは目をつむってしっかりと男にしがみついた。
エリッヒは闇夜を照らす火柱を背に、村からどんどん離れていった。