流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
「で、あなたはそれを伝えに来たの?」

「明日の成年の儀を控えて、お嬢様に申し上げておかねばならないことがあるのです」

「なによ」

 執事は咳払いをしてから告げた。

「快楽の秘儀についてでございます」

「快楽? それはどのようなものですか」

「お世継ぎをもうけるのに必要なものでございます」

「ああ、もう。また、世継ぎ世継ぎと、そればっかり。お父様はわたくしが子供を産むことしか興味がないのかしら」

「国王陛下のお気持ちもご理解下さいませ」

「それは、もちろんわたくしにも分かりますわ。お兄様達やお母様まで亡くなってしまって、すっかり気弱になってしまって。でも、だからといって、愛のかけらもない結婚を押しつけられるのは御免ですもの」

 シュライファーが苦笑する。

 執事でありながらあからさまな侮蔑的態度を見せたことに対してエミリアは叱りつけた。

「なによ、何がおかしいのですか」

「お嬢様が愛を語るとは、滑稽でございまして」

「なんてことを!」

「ですが、お嬢様はいまだに熊のぬいぐるみに口づけをなさっておられるような御方ではありませんか」

「あなたまさか、わたくしの寝室をのぞき見していたというのですか」

「いいえ、枕元のぬいぐるみの口が黒ずんでおりますので」

 赤面したエミリアが震え出す。

「あ、あれは髭を描いたのです。威厳のある姿にするために」

「さようでございますか」

 シュライファーは淡々と続けた。

「快楽の秘技とはアマトラニ王家の血筋を絶やさぬために必要な知識でございます。本来は女官どもが手配してお教え差し上げることではございますが、お嬢様も長く伏しておられましたし、お母上様のご不幸による混乱もございまして、お手配が間に合いませんでした。これについては教育係である私の落ち度であり、大変申し訳ございません」

「ならば、シュライファー、あなたが責任を持ってその快楽の秘技とやらをわたくしに教えなさいよ」

「いえ、それはできません」

「なにゆえ」

 エミリアが首をかしげた。

「殿方との交わりに必要だというのなら、あなたでいいでしょう?」

「わたくしはお嬢様に触れることなど畏れ多い身分でございますゆえ」

「触れる? いつも触れているではありませんか」

 エミリアはシュライファーと向かい合って手を取った。

「舞踏の手ほどきだってしてくれてるじゃないの」

「はい、ですがいっこうに上達なさらないのは私の教え方に問題があるかと反省しております」

 エミリアは思いっきりシュライファーの足を踏んづけた。

「あら、ごめんあそばせ」

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