ある日、母の声が一段と大きかった日、

彼女は僕に聞いた、

「嫌いな食べ物は何?」

僕は答えた、

「それは今絶対に答えないと駄目?」

「ええ、駄目よ。」

「なら、僕を説得してみて。
僕に絶対に答えないといけない理由を
納得させる事が出来たら答えてあげる。」

彼女は表情一つ変えずに答えた、

「理由も何も、
今あなたが一番話したい事でしょ。
私が説得するまでもないわ。」

数秒、母の声を聞いた後僕は話した、

「ゴボウ。僕はゴボウが嫌いなんだ。」

「知っているわよ。
だって何度もあなたは私に、
この質問をさせるのだもの。
でも未だに分からないの、何故嫌いなの?」

「僕にも分からないよ。
分からないけど、とてつもなく嫌いなんだ。
アレをみると、
自分が宇宙に放り出された気分になるのさ。
不思議なものさ。
一度も行ったことのない宇宙を、
ゴボウで感じる事が出来るんだもの。
そう思うと、
僕は幸せかもしれないな。」

「おかしな人ね。」

この日は、これで終わりだった。

その後も僕は彼女に話しかけようとした、

だが、どうも

もう返事が返ってこないような気がした。

僕はいつもより大きい母の声を聞きながら、

襖より一番遠いところに身を寄せ、

漏れた光が当たらないように、

い草の香りなどしない畳に転んだ。

彼女は全く動じず、喋らず、

ただただ、空虚を眺めていた。
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