キミの声を聞かせて
そして待つこと30分。
駅の前にいると一台の車が来た。そして開く車の窓。中を見ると先生がいた。私は静かに車の中に入る。
「あの...ありがとうございます...」
先生は私の方を向いた。すると私のほっぺを両手でつまんできた。
「しぇ...しぇんしぇい?」
「こんな雨の日にこんな時間に何してんだ〜?」
笑顔で言っているのが逆に怖い。先生は私の頬から手を離し運転に戻る。
「ライブに行ってて...。あと少しで駅に着くって時に電車止まっちゃって...。ごめんなさい...」
「まぁ俺に頼ってくれたのは嬉しいから許すことにするかな...」
小さな声でそう言う先生。
他に頼れる大人が居なかったから...。その理由もあったが、何より先生のことしか頭に浮かばなかったからだった。
「お父さんは仕事か?」
「はい。今日は泊まりです」
「そっか...」
「先生...?」
「ん?」
先生の横顔はどこか淋しそうに見えた。
「どうかしました?」
「いや、何でもないよ。遠野は今日家に一人なの?」
「はい。そうです」
「怖くない?」
「大丈夫ですよ。高2にもなって一人でいるの怖いとか言えないです」
「俺が一緒に居てやろうか」
「犯罪です」
「ははっ。その通り」
これは冗談だったのだろう。笑った後それ以上は何も言わなかった。
そして私の心は正直それどころではなかった。助手席から見る先生の運転姿。それは今まで見たことがなかった姿でドキドキした。
「やっぱり大人なんだなぁ」
「ん?」
「いや、別に...」
ふとした時に感じる大人だということ。それが同級生とは違う男の人だと思わされてより胸が高鳴った。
そして運転すること30分。私の家に着いた。私は鍵を開け、家に入る。
「本当にありがとうございました。それじゃあ」
「俺居なくて本当に良いの?」
「大丈夫ですよ。せっかくの休日邪魔してすみませんでした」
「俺は休日でも遠野に会えたから嬉しかったよ」
またそんなことを簡単に言う...。
「はぁ。それじゃあまた...」
その時だった。大きな雷の音が鳴り響いた。
「あっ」
私は思わず先生の服を掴んだ。先生は黙って掴まれた服を見る。
「えっ、あ、ごめんなさい。それじゃあ」
「もしかして雷怖いの?」
その通りだった。しかし先生にそのことを知られるのは恥ずかしかったため私は口を噤んだ。
すると先生は私の頭を撫で
「家着いたら電話する」
そう言って車に戻っていった。
「...え?」
この心臓の鼓動がいつもより早いのは雷に驚いたからだろうか...。それとも先生に頭を撫でられたからだろうか...。その時の私は答えを出すことができなかった。
< 11 / 42 >

この作品をシェア

pagetop