キミの声を聞かせて
そして訪れた放課後の時間。私は足早に資料室に向かう。
「...先生?」
先生はまだ居なかった。2ヶ月ほど前に私が整理した棚を見る。
「...整頓されてる」
ファイルは順番通りに並んでいる。私が整頓しなくても済んでいるのは良いことのはずなのに心が淋しかった。
「お、早いね」
その時先生が入ってきた。
「あ、先生」
自然と笑顔が溢れる。私はこんなにも先生が好きになっていた。
「バレンタインのお返ししようと思って」
「はい...」
何をくれるのだろうか。先生が私にくれるものなら何でも良かった。
「目閉じて」
「え?」
「早く」
言われるがまま私は目を閉じる。すると首辺りに先生が何かをしているのを感じた。
「目開けて良いよ」
目を開けると首にぶら下がっている光るもの。
「これ、ネックレス?」
「うん。お菓子とかだと食べたら終わりでしょ。形に残るものにしたかったから」
可愛い星がつけられているネックレス。私はすぐに気に入った。
「先生ありがとう」
「見つかって没収されないようにしろよ」
「うん!」
絶対に失くさないようにしよう。そう心に決めた。
「ネックレスの意味って知ってる?」
「意味?」
私が分からない顔をすると先生はニヤッと笑った。そしてネックレスに触れながら私の耳に口を近づけて言った。
「首輪」
先生の息が耳にかかる。ドキドキが止まらない。
「な、なにそれ」
「アクセサリーには贈った人を独占したいって意味があるんだよ。ブレスレットなら手錠、ネックレスなら首輪」
「そう、なんだ」
ドキドキしすぎて頭が真っ白になる。これ以上近くに居たら胸がもたない。
「わ、たし、今日はもう帰...」
帰ると言いかけた時だった。
「無防備すぎやしませんか?」
声がした扉の方を見ると風磨くんがいた。
「...よう。なんか質問か?」
先生が焦ることもなく話す。
「...そうですね。単刀直入に聞きます。遠野さんと先生って付き合ってるんですか?」
私は何も言うことが出来ず黙って俯いてしまっている。
「付き合ってないよ」
「へー。じゃあ先生は遠野さんのことが好きなんですか?」
「うん。好きだよ」
「先生!」
そんな簡単に人にバラして良いのだろうか。慌てる私とは裏腹に先生はまだ余裕の態度を崩さない。
「このこと誰かに言ったらすぐ噂になりますね。久雅先生は自分の生徒を恋愛対象にしてるって」
「その言い方は嫌だなぁ」
先生は頭をかき、そして私の方を見る。
「俺は遠野だから好きなんだよ」
先生はどうしてそこまで私を想ってくれるの?もし噂が流れたら先生がどんな目で見られるか...。想像しただけで苦しくなった。
「...隠そうとしないんですね」
「広瀬は言いふらすような人じゃないと思うから」
「なんでそんなこと言えるんですか」
「俺の勘」
優しい笑顔のまま言う先生。
そんな先生を尻目に風磨くんは舌打ちをした。そして私の手を取った。
「もう一度言います。俺、負けませんから」
風磨くんに手を引かれたまま私は資料室をあとにした。

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