熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~

「……とにかく、お前が気に病んでいるようなことはなにもない。第一、お前はきちんと結果を残してきたじゃないか。上層部の誰もがその努力を認めているし、次期社長になるべき人物はお前だと納得している」

「そう、か……。そう、だよな……」

あまりに拍子抜けする展開に、俺は半信半疑で頷く。

でも、よく考えればまったく畑違いの職種に就いていた兄を、いきなり経営者にするなんて、無理な話だ。そんなこともわからなかったなんて、どうやら俺は相当冷静さを欠いていたようだ。

……しかし、どうしてあのとき秘書はそんな嘘を俺に教えたのだろう。

先日会った優良も、噂を鵜呑みにしていたようだったし……すべては兄の策略なのか?

「梗一」

そのとき、今まで沈黙を貫いていた母がふいに口を開く。

「桔平は……変わった子ではあるけど、悪い子じゃないわ。あの子のすることには、きっとなにか意味がある」

物静かな母が、こんなにきっぱりとした物言いをするのは珍しい。母親として、兄弟が仲違いしている状況に胸を痛めているのかもしれない。

俺も大人げなかったかもな……。いい歳して、兄弟間のことで親に心配をかけるなんて。

「……わかったよ、母さん。今度兄さんに会って、ちゃんと話を聞いてみる」

「ええ。それがいいわ」

ホッとしたように微笑んだ母親を見て、俺も内心安堵する。仕事の件で悩む必要がないとわかったのも、大きな収穫だった。

あとは、兄の真意を確かめられればいいのだが……それが一番厄介で、骨が折れそうだ。


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