ママと秘密の赤ちゃんは、冷徹皇帝に溺愛されています
「あなたはルメール男爵令嬢として地方で暮らし帝都に足を踏み入れたことはないそうですね。しかしルメール家を訪れた貴族が全くいなかった、なんてことはないでしょう。つまりあなたの顔を見知っている貴族は少なからず存在すると言うことです」

確かにカイルの言う通りだ。ルメール家ではおおがかりな夜会などは開かれなかったけれど、それでもお父様の仕事の関係者や遠縁の貴族が訪れることがときどきあった。

「……でも、男爵家の娘に過ぎない私のことなどいつまでも覚えているとは思えません。それに用心の為、実家からの援助は一切受けていませんし、連絡だって余程のことが無い限り取っていません。もう四年もルメールと関わっていないのですよ?」

公爵や侯爵の姫君ならともかく、貴族としては最下位の爵位の男爵令嬢など大勢いるし、帝都の社交界に出ていない私など数にも入らないと思う。

「ただの男爵令嬢ならばあるいはそうだったでしょう。しかしあなたは特別だ。現皇帝陛下の幼馴染なのですから。あなたの顔を忘れるラヴァンディエ貴族などいませんよ。現に私は四年ぶりでも一目見てあなたが分りましたから」

カイルの言葉は私を不安にし追い詰めた。

それまで平和に暮らしていたティオール王国での暮らしが、急にまやかしのようなものに思えて来たからだ。

私の選択は間違っていないと思っていた。

レオンを諦めるのは辛かったけれど、その代わりに安寧を手にしたと思っていた。

でも、それは私の思い込みだったの?

本当はちっとも安全などではなく、私達の暮らしはとても脆いものだったと言うの?

動揺する私にカイルが淡々と告げる。
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