月の記憶、風と大地

『ドラッグストア ナーキア』


地方を中心に展開しているローカルチェーン店だ。


店内に入ると有線が流れ、たまにドラッグストアの広告が流れている。

自動のガラスドアを通りレジにいた白衣の女性に声をかける。

短髪の黒髪、日に焼けた健康的な肌が印象的な女性だ。
きりっとした眉毛に黒い大きな丸い瞳。
体型は細く華奢で、身長は一五十センチない小柄な女性だったがバストが大きい。

年齢は二十代後半くらいに見えた。


「ああ。面接の」


女性に案内され店舗の奥の倉庫兼事務所に向かうと、倉庫で一人の男がトイレットペーパーの大きなダンボールの片付け作業を行っていた。

二人に気づき作業を止め近づき、弥生が自己紹介をして頭を下げる。


「こちらこそ、よろしく」


黒縁の眼鏡をかけた男が笑いかける。

背が高い。

白衣を身に付け、胸のプレートには『店長 津田啓介』(つだ けいすけ)と書かれていた。

身長は一八十センチくらい。
黒髪ではっきりとした顔立ち。
年齢は弥生と同じ年代くらいに見えた。
男らしい美形だった。


夫以外の男と面と向かって話すなどあまりない弥生は、どぎまぎした。
しかもこの津田という男は、黒縁の眼鏡のせいか率直で誠実な印象はあるのだが、なんというか色気がある。

そんな弥生の思いは当然知らない津田は、笑顔で弥生を見つめた。



「改めまして。私が店長の津田です。本日はお忙しいなか、ありがとうございます。早速、始めましょうか」



弥生はいくつかの質問を受け簡単な筆記テストと適正試験を受けることになった。

適性検査に簡単な算数問題。

かけ算や分数、ルートを使った基本計算だが、こんな風にテスト問題に向き合ったのは学生の時以来である。
何十年ぶりだろうか。


事務所兼休憩室のテーブルで硬くなった頭を何とか動かしながら問題を解いていると、ふと事務所の外が騒がしくなった。


「津田さん、穣(みのる)くんのお迎え行ってきましたよ」
「ああ悪いな、後台(ごだい)。助かったよ」
「パパ、ただいま~。……ぼく、昨日の続きやるんだ」
「穣、今はそっちはダメだ」


津田と津田ではない男の話し声が聞こえ、津田が誰かを制止した。

だが制止を無視して閉められていたドアが、ゆっくりと開く。

すると小さな男の子が現れた。
後ろから店長の津田も姿を見せる。


「すみません、邪魔をして。とりたい物があるみたいで」
「塗り絵だよ」


男の子はロッカーに向かうと慣れたように塗り絵とクレヨンを取り出し腕に抱えてくると、弥生の前で立ち止まると塗り絵帳を開いて見せてくれた。

弥生は笑顔を見せる。



「まあ。とっても綺麗に塗れているわね。じょうず」
「ありがとう!」
「穣、いい加減にしろ。お姉さんはお仕事なんだ」



津田が注意すると穣はドアの外へ出る。

津田は申し訳なさそうに会釈するとドアを閉めた。


弥生はつい最近も似たような場面に会ったような気がして考え。
ふと思い出した。


公園だ。


あの寒い日の公園のブランコ。

弥生が求人を探してブランコにいた時だ。

そういえば背格好も津田と男の子は似ている気がする。

まさかと考えながらふと壁にかけられた時計に目をやると、テスト終了まであと五分になっていた。

弥生は慌てて思考を切り替え、テストに集中した。
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