はずむ恋~見つめて、触れて、ときめく~
私の涙に動揺したのか玲司さんは息を呑んで、私を抱き締めた。力強い彼の胸に顔を寄せる。このままでは、彼のシャツを濡らしてしまう。


「泣かないで。ごめん」

「ううん……」


彼の胸の中で、また首を横に振る。玲司さんが悪いのではない。謝る必要もない。悪いのは私で、謝る必要があるのも私。

彼が社長の息子で、次期社長であることを理解していたにも関わらず、受け入れてしまった私が悪い。

好きになっていいかと聞いた私が悪い。私が彼に上司として以外で、近付いたのが悪い。

すべて、悪いのは私だ。玲司さんではない。


「藍果、こっち向いて」


頭上から聞こえる私の名前を呼ぶ柔らかい声。好きな声だけど、もうこんな近くで聞いてはいけない。

お互い下の名前で呼びあってはいけない。玲司さんのお母さんが言うように、ちゃんと自分の立場を考えて行動しなくてはいけない。

顔を上げずにいる私に玲司さんが焦れた声を出す。


「藍果。お願いだから、俺を見て」


私はまた頑なに首を横に振った。


「藍果!」

「えっ?」


体をガバッと離され、突然大きな声で呼ばれた。思わず驚いて、玲司さんの顔を見上げる。
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