仮想現実の世界から理想の女が現れた時
なんだ、それ。

いつもは、すぐにコメントを入れるのに、なんて言っていいか分からない。

田中に告白された?
その上、俺のことをあれこれ言われた?

何を言われたんだ?

俺のことを信用できないって、ものすごくショックなんだけど。

俺は悶々としながら、暁里が出勤するまでの時間を過ごす。

俺と暁里の出勤時刻は、いつもほんの20分前後しか変わらない。

いつもなら、仕事をしている間に過ぎるあっという間の時間だ。

なのに、今日は、時計の針が全然進まない。

俺は溜まった雑務を片付ける気にもなれず、暁里を待った。


20分後、「おはようございます。」といつも通りの元気のいい挨拶とともに暁里が出勤する。

俺は待ってましたとばかりに声をかける。

「瀬名、会議室へ来い。」

「はい!」

俺が会議室へ向かうと、暁里もパタパタとついてくる。

「昨日の報告。」

本題を切り出したいのを我慢して、仕事の話をする。

暁里は、いつもの振り返りのように、田中の営業トークについて、報告をした。

それを一通り聞いた後で、俺は、

「他には?」

と尋ねる。ここからが大事なんだ。

「え?」

「他には、田中に何か言われなかったか?」

暁里の目が泳ぐ。

言っていいものかどうか逡巡してるのが見て取れる。

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