仮想現実の世界から理想の女が現れた時
翌朝、俺は始業時刻の1時間以上前に出勤する。

自席に着き、閑散としたオフィスでスマホを開く。

昨日投稿したSNSに、ちょこさんからコメントが届いている。


*・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・*
転勤、大変ですね。
クマさんなら、きっと大丈夫です。
がんばってくださいね。
応援してます。
*・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・*


思わず頬が緩む。

俺は早速仕事に取り掛かった。

うん、やっぱり、瀬名は営業にしよう!

俺は、会議室にこもって、今後の展開を考える。


始業時刻を過ぎた頃、俺は内線で瀬名を呼び出した。

「失礼します。」

そう言って会議室に入ってきた瀬名は、引きつった笑みを浮かべていた。

ま、そうだよな。

朝、起きて、男物のシャツがあったら、あらぬ想像するだろうな。

俺は思わず笑いそうになるのを堪えて、あえて厳しい表情を浮かべた。

「体調は大丈夫か?」

「はい。
昨日は、送ってくださったそうで、
ありがとうございました。」

昨日の面談とは全然違う、困ったような表情。

俺と目を合わせられなくて、目が泳ぐ。

くくっ
昨日の事、聞きたいけど聞けない、そんなところか。

「どうせ、何も覚えてないんだろ?」

「………はい。」

瀬名は分かりやすくうなだれる。

「知りたいか?」

俺が聞くと、瀬名は、

「あの…
私、部長と何か…?」

とおずおずと尋ねる。

「金曜の夜、あけておけ。」

「え?」

「その時、教えてやる。」

俺は簡単には教えてやらない事にした。

「は?
なんで、今、教えてくれないんですか?」

お?
ここで食ってかかるだけの元気は残ってたか。

「金曜まで、悶々としながら、自分の行動を
反省してろ。」

少しは痛い目を見ないと、これからもあんな飲み方をするだろうからな。

瀬名は一瞬、俺を真っ直ぐ見て、分かりやすく困った顔をした。

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