ラブパッション
「俺は、笑っている君を抱くことはできても、泣いている君を抱きしめることはできない」


呼びかけを早口で遮られ、私は声に詰まって絶句した。
瞳いっぱいに浮かんだ涙で、優さんの苦しそうな顔がさらに歪んで見える。


「隠れて泣かれても、なにもしてやれない。……辛いんだ」


どこか寂し気に揺れる黒い瞳に、私の心臓がドクンと音を立てた。


「あ……」

「すまない、夏帆」


優さんは私を視界に映すことなく、短い謝罪を繰り返して、その場にスッと立ち上がった。
バスタオルを頭から被り、胸元で合わせ持ったまま喉を仰け反らせて見上げると、彼は私を見下ろし、壊れそうな脆い笑みを浮かべた。


「俺は、君の純真さに甘えていた。これからは、こんな悪い男に引っかかるなよ」


それだけ言って、くるりと背を向ける。
水に濡れたタイルの床を、一度パシャッと鳴らし、バスルームから出ていく優さんを。


「っ、待って……」


呼び止めようとした声は、アコーディオン型のドアに阻まれ、彼の背には届かなかった。
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