ラブパッション
彼女は一歩前に出て、小さなハンドバッグから取り出したものを、腰を屈めてそこに並べる。
黒い石の上に置かれたお揃いの二つのリングが、頭上から注ぐギラギラの太陽光を反射して、眩い光を発した。


優さんは目を細めただけで、黙ってそれを見つめている。
玲子さんは背を起こして姿勢を正すと、フフッと声を漏らして笑った。


「離婚報告なのに、同じ日の同じ時間でかちあっちゃうなんて。いっそ、一緒に来てもよかったわね」


そう言いながら、美しい仕草で前髪を掻き上げる。
彼女の言葉に、優さんも表情を和らげて頷き返した。


「そうだな。……次は友人として。四人で一緒に来ようか」


玲子さんも、何度か首を縦に振って応える。


「来年ここに来る時は、私もあなたも、新しい幸せな家庭を築いてるって、報告できそうだものね」

「え……」


私を見遣る、どこかからかうような瞳にドキッとして、無意識に胸元を握りしめた。


「玲子」


ちょっと困ったように顔を歪める優さんに、彼女はクスッと笑うだけ。
そして、無言で立ち尽くしている瀬名さんを振り返り、


「明彦」


柔らかい笑顔で呼びかけた。
それを受けて、瀬名さんが歩いてくる。
彼は黙ったまま、玲子さんの隣に並んだ。
そして、優さんとまっすぐ対峙して――。
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