ラブパッション
「優。俺たち、半年後に結婚する約束をした」


いつも軽い調子の瀬名さんが、優さんに真剣な目を向ける。
彼の宣言に、私は思わず息をのみ口に手を当てたけれど、優さんの方は特に動じる様子はない。


「そうか。……おめでとう。玲子、瀬名」


わだかまりなく祝辞を述べる優さんに、瀬名さんもホッとしたように目尻を下げた。


「ああ。……ありがとう、優」


二人が微笑み合う様を見つめていた玲子さんが、ふっと墓石を見遣る。


「今日は、その報告もあるの」

「ああ。どうぞ、ごゆっくり。……夏帆、行こう」


優さんは辞するタイミングと察して、私の肩を軽く寄せる。


「はい」


私も素直に応じて、二人に軽く頭を下げた。
優さんと並んで石畳に足を踏み出し、駐車場に続く通路に戻る前に、墓石の前の二人をそっと振り返る。
先ほどの優さんと同じように、墓石の前でかしづく玲子さんを優しく見つめる瀬名さんの姿を、目に焼きつけた。


軽い言動の中に、いつも玲子さんへの誠実な想いを秘めていた人。
彼の想いが玲子さんに通じたのをこの目で確認できて、私の胸も弾んだ。


「……お幸せに」


無意識に足を止め、口元を綻ばせる。
優さんは、そんな私を、とても優しい瞳で見守ってくれていた。
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