ラブパッション
優しさの裏側
東京本社勤務二日目。
今日は幾分スムーズに、通勤電車に乗れた。
昨日は不安定で慣れないヒールが気になって、足元ばかり見ていたけれど、今はなんとか前を向いて歩いていられる。


本社ビルの最寄りの駅から地下道を抜けて地上に上がると、晴れやかな青空が広がる。
人と車が多いオフィス街の空気は、全然澄んでないけど、満員電車に揺られた後だから、新鮮に感じられる。
私は一度大きく深呼吸をしてから、腕時計で現在時刻を確認した。


ここから本社ビルまで、徒歩五分。
エレベーターの行列を加味しても、海外営業部のフロアに、三十分前には到着予定。


昨日は同僚の女子たちのパワーに圧倒されて怯みっ放しだったけど、東京での生活は始まってしまったのだ。
いつまでも及び腰でいてはいけない。
とにかく、いつ戻れるかわからないんだから、ここでやっていけるよう、私もしっかりしなければ。
一人決意を固めて、『よしっ』と顔を上げた時。


「……わっ!!」


おどけた声と同時に後ろから肩を叩かれて、心臓がドクンと震え上がった。


「きゃ、きゃああっ!?」


慌てて振り返ると、大きく目を丸くした長瀬さんが立っていた。
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