ラブパッション
「うわ、びっくりした。ごめん、そんなに驚いた?」

「長瀬さんっ……?」


バクバクと騒ぐ胸を押さえ、私は改めて彼に向き直る。


「すみません、考えごとしてて。あの……おはようございます」


ペコッと頭を下げると、おはよう、とニッコリ挨拶を返された。


「二度寝して、いつもの電車に乗り遅れたんだけど、ラッキーだったな。オフィスまで一緒に行こう、夏帆ちゃん」

「はい。……って、え?」


促されて同じ方向に歩き出しながら、あまりにさらっと名前で呼ばれたことに、思わず反応してしまった。
長瀬さんは隣から「ん?」と見下ろしてきて、私の様子でなにを気にしたか勘付いたらしい。


「あ、名前で呼ばれるの、嫌?」

「い、いえ。そういうわけではないですけど」


倉庫では、みんなに『夏帆ちゃん』と呼ばれていた。
でも、昨日知り合ったばかりで、年も近い男の先輩から呼ばれるのは慣れてないし、ちょっと落ち着かない。


「二週間も経ったら、俺の補佐に就いてもらうんだし。一緒に仕事するなら、仲良く楽しく。モチベーション上がって、営業成績も鰻上り。一石二鳥だと思わない?」

「はあ……」
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