ラブパッション
菊乃に忠告されたせいで、警戒心が先に立ってしまったけど、裏を感じさせない明るい笑顔。
長瀬さんは誰にでも気さくで、壁を作らない人だと思えば、このやや近めと思う距離感も、彼にとってはごく自然なのかもしれない。


「だから早く仕事覚えて、俺んとこ来てね」


小首を傾げてニッと微笑まれ、私もクスッと笑ってみせた。


「その時はお役に立てるよう、頑張りますね」


オフィスビルのエントランスが見えてきて、気を引きしめるつもりでそう言った。


「うん。待ってるよ」


彼がとても嬉しそうに、声を弾ませたのがわかった。
菊乃が、長瀬さんはわかりやすいと言っていたけど、そう敏感な方じゃない私でも、彼の『好意』が感じ取れる。


くすぐったいような、それでいて腰が引けるような。
長瀬さんの好意は嬉しいのか、それとも困るのか、私自身どっちとも判断できない。
オフィスの先輩と、つかず離れず心地よい関係と距離感を模索して、長瀬さんとのやり取りには神経を使う。
はっきり言われたわけでもないのに、自分でもちょっと呆れるけれど。


とにかく今は仕事。
今日も周防さんから指導してもらうことを考えると、自然とそれで頭がいっぱいになった。
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