君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

 それはきっと、ひどく残酷だ。
 
 そんなこと、俺が言う権利ないなんて、分かってはいるけれど。
 茜の瞳を見るのが怖くて、俺は茜に縋りつくように身を埋めた。

 戸惑うように俺の背を触れていた茜の指先は、結局俺の毛先に行き着いた。

 触れる温度は、昔から変わらない、以前と同じ。
 小さな弟をなだめるような、それのまま。

 何で俺はそんな指先に欲情してしまうんだろうと悲しくなった。そうでさえなければ、俺は―――。


「どうしたんだよ、なんか悲しいことでもあったのか?」


 落ちてきたのは、嫌になるぐらい甘くやさしい音だった。


< 358 / 395 >

この作品をシェア

pagetop