君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
 頭の上から降ってきた軽やかな声に、おれたちが顔を上げると、茜の歌声に導かれるようにして、この路地裏に入り込んできたらしい、自分たちより少し幼い感じのする制服姿の少女が立っていた。

 金髪に近い明るい髪の毛は、地毛なのかエクステなのか分からないが、彼女の腰の辺りでさらさらと揺れている。
 

 彼女の言葉に、茜は歌うのを止めて、ありがとうと礼を言って、ふわっと笑った。

 おれも、ありがとうね、と続ける。茜の歌が、人に褒められるというのは、とても嬉しかった。


 二人の人当たりの良さそうな態度に安心したのか、おれたちと向き合う格好で少女もしゃがみこんだ。

 その綺麗にマニキュアの塗られた、赤い爪が、なぜかおれの目に強い印象を伴って飛び込んできたのだった。

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