約束のエンゲージリング
これもリップサービスなのか接客業のプロはお世辞を言うのも上手い。
確かに微妙な表情をしていた彼だけれども、そういう理由なんかじゃない。
自分で否定しておいて気分が落ちていくのが分かる。
浴衣に着替え終わって、綺麗に着付けられているか鏡で確認していると悲しげな自分と目が合う。
咄嗟に目を逸らして若女将に声をかける。
「浴衣の着付けはこんな感じで大丈夫でしょうか?」
「はい、綺麗に着付けられてますよ。とってもお似合いです。これじゃ旦那様が嫌がるのも納得ですね!」
「いえ、ですから彼は嫌がったりは、、。」
そう言いかけて黙り込む。
言葉にすればするほど自分が惨めに思えてくる。
目頭が熱くなってきてしまい、慌てて若女将に背を向けた。
するとうなじの周りの襟を若女将がそっと直しながら耳元で囁いた。
「実は浴衣を勧めたのは私なんですよ。受け付けで旦那様にお話した時は即答で断られてしまいました。でも折角等旅館にお越し下さいましたのに、奥様の意見も聞かずに、、というのは如何なものかと思いまして。ですから一応伺ってみてはどうですか?とお声がけさせて頂きました。」
「、、そう、、だったんですね。でも浴衣を断ったのはきっと私が着付けられないからだと思います。」