Legal office(法律事務所)に恋の罠 *番外編~ジェラシーは内密に~
「和奏の様子がおかしいんだ」

社長室に戻ってきた奏は、ストンと応接セットのソファに腰かけると、天井を見つめて言った。

「おかしい?私にはCEOの様子の方がよっぽど可笑しく見えますが?」

クスクスと笑いながら口元に手を当てる松尾が呟く。

「彼女がどこに向かったか、松尾は聞いていないか?」

「お出掛けになられたのですか?」

奏はため息をつきながら頷いた。

「三浦マネージャーは知っているようだったが教えてくれなかった。和奏に直接聞けと・・・」

「ああ、あの二人もお似合いのカップルと言われていますね。三浦マネージャーを社長と勘違いしているゲストもいますしね」

松尾の言葉に、奏の表情が強張る。

「和奏を企業弁護士にしたのがまずかったのかな・・・」

「そんなわけないでしょう。いったい、どうしたのですか?こんなに当ホテルに貢献してくれている和奏さんですよ。痴情のもつれを仕事に持ち込まないで下さい」

松尾はため息をついて呆れたように,しかし、はっきりと言った。

「直接、和奏さんに聞けばいいでしょう。昼食時間が終わったら戻ってくるでしょうし。それにCEOも午後からは重役会議ですよ。早く食事を摂ってきて下さい」

急き立てる松尾にため息を返しながら、奏は渋々といった態度で立ち上がった。

奏はどうにも和奏のことになると自信が持てずにいる。

宇津井のせいで、これまで自由な恋愛ができずにいた和奏。

ようやく自由を手にした彼女は引く手数多だ。

シスコン気味で、女性に興味を持てなかった奏とは違う。

多くの選択肢を与えられた和奏が、この先、奏だけに縛られる道を喜んで後悔していないだろうか・・・。

仕事では自信に満ち溢れる奏だったが、こと恋愛になると不器用さを現す。

そんな取り越し苦労と思える事項に時間を費やす奏を、松尾は可愛いと感じるのだった。



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