Legal office(法律事務所)に恋の罠 *番外編~ジェラシーは内密に~
和奏は、鉄壁のアイアンフェイスを崩さずにデスクから荷物を取る。

その後は、もう奏の方は振り返りもせず、足早に部屋を出ていった。

「あらー、また、勘違いさせちゃったかしらねぇ」

「紫織さん!いい加減に・・・」

「じゃ、またねー」

紫織は、奏の母の紹介で重役秘書になった。

バツイチで36歳と聞いているが、見かけは20代後半といっても通る位若々しい。

このところ、紫織は和奏がいるところでわざと奏に身体的接触をはかっている気がしてならない。

現に、たった今、和奏は誤解して執務室を出ていったのだ。

「また、俺は同じミスを繰り返すのか?」

慌てて和奏を追いかけようにも、これから挨拶するお得意様は海外からのVIPだ。

仲川や林美麗のことでもお世話になったアジアの首領。

わざわざHotel Bloomingを選んで宿泊してくれる大お得意様。

挨拶をしないわけにはいかなかった。

「くそっ、なんて間が悪いんだ」

スマホのSNSで和奏にメッセージを飛ばすも、朝から全く既読にならない。

弁護士に執務室の入り口を見ると、ドアの右上には

"不在" "NR"のマーク。

いわゆる"直帰"を表しており、今日はもう、ここに戻らないことを意味していた。

奏は、今日いったい何度目になるのかわからないほどのため息を繰り返すと、スーツの上着を羽織り、最上階のグランドスイートルームに向かった。

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