片想い同盟
待っていた信号の色が変わったことを確認すると、私たちはペダルを漕ぐ。
今日は私の方が早かったから、走る順番は私が前だ。
風を切って走る自転車だから、私たちの間に会話はない。
ただ、後ろに拓海がいて、彼のペダルを漕ぐ音が風の音に紛れて聞こえるだけ。
そのまま会話をすることもなく学校に着くと、私達は駐輪場に自分たちの自転車をそれぞれ並べた。
「ぷっ……、杏お前、前髪ないぞ」
「えっ、嘘!?」
振り返った拓海にいきなり笑われた私は、化粧ポーチから手鏡を出して自分の髪をチェック。
向かい風だったせいか、前髪は家を出るときから比べるとかなり乱れていた。
「うわ〜。悲惨だ、これは」
「どれどれ。こーしたら直るんじゃねぇの?」
「ちょ、何す……っ!」
呑気なことを言いながら、拓海は私の乱れまくった前髪に触れる。そしてそのままわしゃわしゃと撫で始めるものだから、驚いて声を上げた。