似非王子と欠陥令嬢
キャロルはなるようにしかならないと一応読んでいた『社交界の会話術徹底マスター』を事務机に投げる。

フワリー嬢が帰省前に渡してくれたのだが全く出来る気がしなかった。

気の利いたジョークやウィットに富んだ返し等無理難題にも程がある。

むしろこんな上級者向けの内容ではなくとりあえず穏便にやり過ごす為の方法の方がキャロルにはよっぽど必要であろう。

というかジョーク等今までの人生で言った覚えがないのだ。

何よりも書かれていた令嬢らしい嫌味の言い方などキャロルが言われても嫌味だと分かる気がしない。

何故「独創的なお考えですね」で「お前頭おかしい」という嫌味になるのだ。

「非常に興味深い」が「完璧に馬鹿げてる」に何故なるのだ。

もう少し分かりやすい嫌味を言ってほしい。

心の底から通訳が欲しい。

ドレスも色が被るといけないからとフワリー嬢に聞かれたが未だにドレスを見ていないキャロルに答えられる訳がなかった。

上手くいく気がしない。

許されるなら欠席してしまいたいが王命に逆らう事は出来ない。

まあ会話やダンスは絶望的だがドレスや装飾品はルシウスが準備するのだからおかしな事にはならないだろう。

ただ1つ不安な点はさっきの笑顔が明らかに怪しかった事だ。

絶対にあの顔は何か企んでいる顔であった。

一体こいつは何を思い付き実行しようとしているのか。

キャロルはチラリとルシウスを見る。

視線に気が付いたのか書類に向かっていたルシウスの顔がこちらに向いた。

「ん?
なんだい?」

「…いえ、何でもありません。」

流石に王家主催の夜会でこいつもやらかすような真似はしないだろう。

そう信じるしかない。

キャロルは事務机に頬杖を付きまた本に目を落とした。

その後ろ姿を追うルシウスの目が意地悪く弧を描いた事にキャロルが気が付く事はなかったのである。
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