似非王子と欠陥令嬢
……やられた。

完璧に策に嵌められた。

キャロルが気が付いたのはクリスのメイドにこれでもかと捏ねられ揉まれ塗りたくられた後であった。

全てを終え鏡を見る。

純白から金へとグラデーションし銀糸で刺繍の入ったドレス。

白金の台に見せつけんばかりのブルーダイヤモンドがあしらわれたネックレスとイヤリング。

キャロルの黒髪がドレスとの対比で映えて美しいだのとメイドが騒いでいるがそんな事知ったこっちゃない。

問題はルシウスの頭髪と瞳に合わせた仕上がりである事なのだ。

ヤバい。

これは本当にヤバい。

候補ではなく婚約者であればこの装いは間違いない。

ドレスや装飾品を婚約者の髪や瞳の色に合わせるというのは良くある事だからだ。

ただ今キャロルが婚約者候補であるという事実がこの装いが間違っている理由である。

いくら何でもこれを候補の状態でするというのは自分が既に婚約者に内定している、もしくはそう思い込んでいる頭のおかしい奴と言う事になってしまうのだ。

やられた。

完璧な嫌がらせ以外の何者でもない。

奴はキャロルの魔道具『えあこんでぃしょなー』の恩恵をのうのうと受けながらこんな極悪非道とも言える嫌がらせをかましてくれたのである。

アグネス嬢やフワリー嬢に何を言われるか分からない。

鏡の前で崩れ落ちたキャロルを心配してメイドがクリスを呼びに行く。

「キャロル?!
どうし…。」

「小兄様……。」

項垂れるキャロルのドレスと装飾品を見てクリスも絶句している。

「…いや…すまないキャロル。
今さっきメイドに直接渡されたから俺もドレスを確認してなくて…。」

「…もう今日休んで良いですか?」

キャロルの絶望的な声にクリスが眉間に皺を寄せる。

何とか案を捻り出そうとしているのだろう。

「…王命だからそれは無理だ。
でも誰かに聞かれたら大きめの声で『兄が勝手に先走ってしまって…。本当にお恥ずかしい限りです…。』って恥じらいながら言っておけ。
そうすれば権力に執着してる馬鹿な兄がやらかした事に被害を被っている可哀想な妹だと思って貰えるからな。」

「えっでもそれでは小兄様が…。」

「大丈夫大丈夫。
研究職だし結婚予定もないから多少変な噂がたった所で問題ない。
それよりもお前が色々言われて後2年近く地獄をみるほうが俺は辛いからな。」

キャロルは唇を噛み締める。

この兄はいつだってそうなのだ。
< 110 / 305 >

この作品をシェア

pagetop