似非王子と欠陥令嬢
「…それ私の夜食なんですけど。」

キャロルがタラのソテーを奪われジト目で見ると輝かんばかりの笑顔が返ってくる。

「私は君達が夜会そっちのけで呑んだくれている間ずっと令嬢達の相手をしてやった上、君達のしょうもない嘘にも合わせてあげたんだよ?
夜食位差し出しても罰は当たらないと思うけど?」

「嘘なんてついて」

「ドレスの件、レオンのミスって話にしたんじゃないの?」

「…あぁそう言えばそうでした。」

元はと言えば目の前の男のせいでつくハメになった嘘なのだがこの男にとっては関係ないらしい。

暴虐無人、傲岸不遜の言葉が頭を過ぎるが口に出してはいけない。

面倒臭い事になるのは分かっているのだからわざわざ地雷を踏みに行く必要もない。

「まあそれはもういいよ。
私も少しだけやり過ぎた気もしなくはないからね。」

「…少しだけですか。」

「何か?」

「…いえ別に。」

「そう?
まあそれよりもアンジェリカ嬢だったかな。
キャロルの義理の妹の。
あの子アグネス嬢からキャロルに標的を変えたみたいだから気を付けてね。」

「あー既に絡まれましたね。」

「だろうね。
あの子中々激しい性格みたいだし。」

ルシウスがワイングラスを置き窓の外を見る。

確かに今夜は見事なまでに月が美しい。

「だから傷付いた顔してるのかい?」

その言葉に一瞬惚けてしまう。

レオンといいルシウスといい表情を読み過ぎではないだろうか。

「してませんよそんな顔。」

「気にする事ないよ。」

キャロルの否定を無視してルシウスが続ける。

こいつは人の話を聞かない癖でもあるのか。

「自分を良く知らない、知ろうともしない、理解する努力さえしない。
そんな人間の言葉に傷付く必要はないよ。」

「……よく知るはずの家族の言葉でもですか?」

自分が思っている以上に引きずっていたらしい。

淀んだ声が出てしまった。

「家族でもそうだね、キャロルの場合クリス殿の言葉は受け入れるべきだと思うよ。
でもそれ以外のキャロルを知ろうともしない人達の言葉に耳は貸さなくて良いんじゃないかな。」

「…そうなんですかね。」

ルシウスの言葉を素直に受け取る事が出来ない。

麦酒の入ったジョッキを無意識に握り締めてしまう。

「そうだよ。
現に私がそうしてるんだしね。」

ルシウスが少しだけ寂しさを滲ませながら微笑んだ。
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