似非王子と欠陥令嬢
「殿下もですか?」

「そりゃあそうでしょ。
何でわざわざ自分を絶対に認めないって分かってる人の言葉を受け止めなきゃならないのさ。
私にそんな被虐趣味はないからね。」

先程の表情を誤魔化すようにルシウスは笑う。

いつもの嘘くさい笑顔に戻っていた。

「…殿下ってあれですね。」

「ん?」

「隠し事する時やけに笑顔が嘘臭くなりますよね。」

キャロルの言葉にルシウスは一瞬きょとんとした顔をするがまた眩しい程の嘘臭さ全開の笑みを浮かべる。

「ん?
私の隠し事が気になる?」

「いえ全く。
絶対後悔しそうなので聞きたくないです。」

「辛辣だよねほんと。」

ルシウスがクスクスと肩を震わせながらワインを飲み干す。

「そもそも私に隠し事なんてないけどね。」

「…そうですか。」

キャロルも麦酒を煽る。

何となく感じるのだ。

キャロルの様に分かりやすく壁を作るタイプじゃなく、こいつは相手にさえ分からない様に自分を壁で囲っているタイプなのだ。

確実にタチが悪いのはルシウスであろう。

近付いたと思っても本当はその姿さえ見せていない蜃気楼の様な物。

オアシスだと思って辿り着いたとしてもきっとその姿はどす黒く濁っているはずだ。

嫌いだからという偏見ではなく何となくそうキャロルの中の警報がそう伝えるのだ。

きっとこいつはルシウス自身さえも飲み込んでしまう様な濁り澱んだ狂気を抱えていると。

危険人物だとキャロルは言われているが自分よりこの男の方がよっぽど危険人物だと皆に言ってやりたい。

とりあえず離宮で騙されている令嬢達には声を大にして言ってやりたい。

「…キャロルって考えてる事分かりやすいよね。」

「そうですか?」

何を考えているか分からない、無表情とは良く言われるがわかりやすいとはルシウス以外に言われる事がない。

確かにエスパーの如くルシウスには読まれている。

主に脳内で罵倒している時だが。

「分かりやすいよ。
さっき物凄い顔して私の顔見てたし。
…そうだね。
多分キャロルが考えてた事は当たってるよ。」

「はあ…?」

「さぁ私はそろそろ寝るよ。
キャロルもお酒は程々にね。」

ルシウスはキャロルの頭を撫でベッドに行ってしまう。

もしかして逃げたのかと思いつつキャロルは窓の外に視線を戻した。

月はやはりムカつく位に綺麗であった。
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