似非王子と欠陥令嬢
静流の遺跡があるマリアヌ国の極東に位置するバヌツスという街は噂に聞いた事はあったが噂以上に寂れた街である。

路地にしゃがみこんでいる子供の手は痩せ細り骨と皮になっていた。

その横には生きているのかさえ分からない人が横たわっている。

街を歩く人々の足取りも重い。

身体を洗う等と言う余裕もないのか街中に何処と無く悪臭が漂っている。

キャロル達はシャツにズボンという服装だったがそれさえも貧富の差が出てしまうのかキャロル達を見る街人の目がギラついていた。

キャロルはギュッと鞄の紐を握りしめる。

これは惨い。

惨すぎる。

その光景を見詰めるルシウスの眉間にも皺が寄っている。

「…一体これは。」

「皆話をする前に早く馬車に乗ってくれ。
まずはここを離れなくてはまずい。」

リアムに促され荷物と共に幌馬車の荷台に乗り込む。

リアムが御者台に座り馬車を出してもまだ街人の視線がずっと追いかけて来ている。

「…驚いたでしょう?」

幌馬車から街を眺めながらルシウスが呟く。

「昔は国でも有数の豊かな土地だったって記録が残っているんだけどね。
150年程前に突然全て枯れ果て水が消えたらしいんだ。
何とか立て直そうとバヌツス領主と話し合って砂漠地帯でも育つ食物をって試行錯誤してるんだけど何故か枯れてしまうんだよ。
それに近郊の海では豊漁なのに何故かバヌツスの港だけ不漁になってしまってね。
どうしても打つ手が見いだせなくて他の土地に移動しようという話にもなったんだけどバヌツスの人は先祖代々の土地を離れたくないと言うし、そもそも移動出来る体力のある人が少ない。
…ここに来る度自分の無力を痛感させられるよ。」

淡々と事実だけを語るルシウスの顔は無表情だ。

もう何度も見た光景なのかもしれない。

レオンはまるで苦痛にでも耐えるかのように顔を歪め拳を握り締めている。

王都からたった1日移動しただけだ。

それなのに余りの差にキャロルも言葉に表せない衝撃を受けていた。

同じ国なのにここまで酷い場所があったのか。

だからリアムが旅の食料を王都で既に買っていたのか。

ここには何もないと分かっていたから。

状況を分かっていても何も出来る事がないなんてルシウスにとってこれ程苦しい光景はあるまい。
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