似非王子と欠陥令嬢
ぐっと腕を引かれルシウスの肩に額がぶつかる。

後頭部に回された掌に力が込められていて離れられない。

「ーっ離せ!!!」

「……………ごめん。」

耳元で聞こえた声が余りにも掠れていてルシウスから離れようと胸を押していた手から力が抜ける。

「…私に力がなくてごめん。
でも何とかするから。
絶対にキャロルを死なせたりしないから。
だから信じて。
…頼むから諦めたりしないで。」

キャロルの肩に置かれたルシウスの顔は見えない。

だがその声が余りにも苦しそうで。

余りにも切羽詰まっていて。

キャロルには何も答えられない。

ルシウスだって母親を殺されたと分かったのだ。

ルシウスだって苦しいはずなのに。

「…本当に…ごめん。」

喉の奥がひりつく。

声を出せば何もかも溢れてしまいそうで唾を飲み込む。

「…私、どうしたら良いんですかね。
憎む事も復讐する事も諦める事も許されない。」

「…ごめん。
本当にごめん。」

ルシウスの肩に顔を押し付ける。

目の奥が熱くて堪らない。

痛いくらいに心が軋む。

魔力がなくなり命が消える事が分かっていながら何も出来ない。

母親を操った人間に拳を振り上げる事さえ出来ない。

肩を抱くルシウスの手に力が入るのが伝わる。

「…もしその時が来たら私の命をキャロルにあげる。
禁術書の中にあったからね。
だから私を信じて欲しい。」

「…そんな事したら私が処刑されるじゃないですか。
王太子殺害で処刑なんて冗談じゃないです。」

「その時は遠くで幸せに暮らしたら良い。
…キャロルが行ってみたかった国へ行ってこの国の事なんか忘れて生きてくれたら良いから。」

「……ほんとに…馬鹿なんじゃないですか。」

ルシウスのシャツの裾を掴む。

痛いくらいに目が熱い。

どうしたら良いのか分からずギュッと目を閉じた。

鼻の奥がツンと染みる。

初めての感覚に戸惑いばかりがおきる。

「…1つだけ可能性があるんだ。」

「なんですか?」

キャロルが顔を上げるとルシウスと目が合う。

ルシウスは覚悟を決めたような顔で、けれど全てを包む様に優しく笑った。

「私の最後の勝負。
私に賭けてくれるかい?」

「…少額なら賭けてあげても良いですよ。」

キャロルの返事にルシウスが嬉しそうに笑う。

ルシウスのその笑顔にほんの少しだけ希望が見えた気がしたのは何故なのかキャロルには分からなかった。
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