似非王子と欠陥令嬢
「キャロ!!
もっと飛ばせ!!!」

切羽詰まったレオンの怒鳴り声に腕が吊りそうになりながら鞭を振り下ろす。

馬に身体強化の魔術をかけてはいるが瞬足と名高いマンティコアが徐々に距離を詰めて来ている。

馬も限界が近いのが涎が止まらなくなってきていた。

それでも鞭を振るうしかない。

手を止めれば死ぬしかない。

前だけを見据え草原を駆け抜ける。

「キャロ!
もう弓も最後だ!!!」

これでもう後は馬と身体強化の魔術にすがるしかない。

すぐ後ろでマンティコアが地面を蹴る音がした。

歯を食いしばって限界だと分かっていながら鞭を振るったその時。



風に乗って頑張ったねと聞こえた様な気がした。



次の瞬間、轟音を立てて地面が大きく揺れた。

その衝撃で馬から放り投げられ地面に投げ出される。

後ろを振り返ると地面が抉られ隕石が落ちたかのようなクレーターが出来ていた。

そのクレーターに突進してきたマンティコアが雪崩の様に落ちていく。

それを呆然と眺めていると頭にぽんと手を置かれた。

「2人共お疲れ様。
次は私の番だ。」

ルシウスは微笑むと詠唱を唱えた。

「イノァマスウォーター。」

クレーターの底に突然現れた泥水が次々とマンティコアを飲み込んでいく。

キャロルがその光景を眺めていると、その横でルシウスは先程キャロルが風を起こして集めた毒針を折り中の毒液をクレーターに流していく。

「マンティコアはね人間の血液に毒を混ぜる事によって自分自身への毒の効果を無害化して人肉を食べる事が出来るんだよ。
…自分の毒で動けなくなって死んでいくってどんな気分なんだろうね?」

水を飲み込み目を見開いたまま沈んでいくマンティコア。

地獄絵図である。

全てのマンティコアが沈んだ頃、返り血で髪の毛まで赤黒く染めたリアムも合流した。

マンティコアの雌は10頭に1頭しかおらず狩りには参加しない。

また幼いマンティコアも残るだろうとあの場所に残りそれらを殲滅していたのだ。

「お疲れ様リアム。
凄い格好だね。」

「ノアこそお疲れ様です。
今すぐ全身洗いたい気分ですよ。」

「気持ちは分かるけどもう少しだけ頑張ってね。」

「承知してますとも。」

リアムはそう返すとレオンの肩を叩いた。

放心していたレオンもノロノロと立ち上がる。

「さっ、みんな仕上げといこうか。」
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