似非王子と欠陥令嬢
「言っても通じない時には実力行使もやむを得ないと思っておりますので。」

キャロルはしれっと言い返しながら立ち上がる。

先程ルシウスが倒したヴォーグを燃やしにいかねばならない。

魔獣は死骸を放置するとアンデッド化してしまう為燃やす必要があるのだ。

キャロルは氷を溶かしているルシウスを放置して歩き出す。

こいつは危険だ。

さっさと終わらせてレオン達と合流してしまおう。

そんな事を考えているキャロルの手足に突然草の弦が巻き付いてきた。

「んなっ?!」

ヤバい、魔獣か?!と首を捻ると犯人が分かる。

こちらに笑顔で指先を向けるルシウスがいた。

「…何するんですか。」

キャロルを弦で拘束した犯人は悪びれた様子もなく答える。

「私はやられたらやり返す主義なんだよね。」

そのままニッコリ笑顔で近付いてくる。

「それに飼い主に噛み付いて来る様な悪い子にはちゃんと躾が必要だからね?」

「飼い主ってなんですか。
私ノアさんのペットになった記憶はありませんが。」

この笑顔は危険なやつだ。

キャロルだって身に染みて理解している。

「うん。
キャロはペットじゃないよ。
でも君は私のだからちゃんと躾なきゃ。」

こいつは頭を暑さでやられたのかもしれない。

いや最初から頭がおかしいやつだとは分かっていたが。

ルシウスがキャロルの目の前に立つ。

キャロルは急いで火魔術で拘束していた弦を燃やした。

逃げなきゃヤバい。

絶対ヤバい。

キャロルが後退るとルシウスが笑いながら口を開く。

「逃げるなら王太子に攻撃魔術を使った反逆罪で捕まえる事も出来るんだよ?」

「…チッ。」

この王太子は卑怯者である。

立場を利用して脅してきやがった。

キャロルは思わず舌打ちしてしまう。

キャロルだってこんな理不尽な事で犯罪者にはなりたくない。

しかも反逆罪は即処刑である。

王太子の腕をちょっと凍らせただけで死刑なんて割に合わない。

「ねえキャロル。」

「…なんですか。」

ルシウスを睨み付けながらキャロルは返事をする。

呼び方が戻ったと言う事は王太子として話しかけて来ているという事だろう。

卑劣極まりない。

キャロルが睨み付けている事など無視してルシウスは極上の笑みを浮かべた。

「『頭を撫でて下さい』って言って自分から頭を出して?」

許される事なら今すぐぶん殴ってやりたい。
< 73 / 305 >

この作品をシェア

pagetop