黒魔術師と優しい戦鬼
 ちょっとした騒動も収まり。
 注文した品も平らげると、一息吐いて、オーファンは盛大な溜息交じりに足を気にしていた。

 結局、戻って来たのはあれからものの十分程だったのだけれど。

 そんな様子も落ち着くと、オーファンは席の向かいで「はふぅ」と食後の余韻に浸るエマへと声をかけた。

「明日が入学式か。楽しみだな」

「です——っと、忘れていました…! 私、楽しみは楽しみでも、やっぱり楽しみじゃないんですよ!」

「——と言うと?」

 迷うことなく、促されるままにエマは続けた。

 クリノス学園に入学式では、通例として、その年の試験で最も優れていた者に余興の実演をしてもらう、という催しるのだ。
 正式には入学式の後、自由参加のささやかなパーティーの場が設けられ、そこで——ということだ。
 それだけに、必ずしも全員の前で恥ものにされるようなことはない。

 ないけれど。

「私、あがり症で……ちょっと不安なんです。せっかくの機会、私の所為で台無しにでもしてしまったら——と」

「台無しって、失敗するとか考えてるのか?」

「はい……ただでさえ上がり症なのに、そのことばっかり考えて臆病になって、どんどんどんどん悪い方に、悪い方にって考えちゃって…うぅ。こういうことなら、ちょっとくらい手を抜いて受験すれば良かったです」

「実力を評価して貰っといてそう言うものじゃないぞ、エマ。それに、大丈夫。心配いらないさ」

「え……?」

 心配がいらない、とはこれ如何に。
 首を傾げて不安気なエマに、オーファンは重ねて言った。

「俺の代の成績トップは、以降卒業まで、他でもないこの俺だからな。慣れてるって言ったら大仰だが、人前に立つ際のアドバイスなんかは出来ると思うぞ」
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