お試しから始まる恋
「おい、その辺りでやめろ」

 ん? と、声がしてなおが振り向くと・・・。


「え? なんで? 」

 なおは驚いて呆然となった。

 振り向いた先には颯がいたのだ。


 冬子も驚いた目をしている。


「さっきから聞いていれば、ありもしない事ばかり言って。恥ずかしくないのか?」

「ありもしないって・・・。柳田君と早杉さんだって、付き合ってないんでしょう? 前に、ここで抱き合っていたのを見たから、早杉さんに直接聞いただけよ」

「お前に関係あるのか? 俺と早杉がどんな関係なのか」

「あるわ」


 なおは颯に歩み寄った。


「私、柳田君が好きだもの。彼よりも、柳田君が好きなの」

 なおは、上目遣いですがるように颯を見つめて目を潤ませた。


 この目を見れば、男なら誰でも虜になってしまいそうなくらいである。


 冬子はそっと顔を背けた。


「悪いが、俺はお前に興味がない」

「え? 」


「同じ職場でも、何とも思った事はない」

「そんな・・・」


「悪いけど。俺が好きなのは・・・早杉だけだ」


 信じられない・・・

 なおは呆然となり冬子を見た。


 冬子も驚いた顔をしている。


 颯は冬子に歩み寄った。


 歩み寄ってくる颯に、冬子はドキドキと鼓動が高鳴ってしまった。



 どうしよう・・・ここは走り去るべきなんだろうか?

 冬子は高鳴る鼓動を押さえながら、どうしていいのか分からなかった。


 冬子の傍に来ると、颯はとても優しい眼差しで見つめてきた。

 その目を見ると、冬子はそっと俯いた。


「ごめん、誤解させて。ずっと、誤解を解きたかったが。お前、全然電話に出てくれないし、メールも返してくれないから。ここに来たら、きっと会えると思って来てみたんだ」

「・・・誤解だなんて・・・」


 俯いている冬子は震えていた。


 そんな冬子を颯はそっと引き寄せた。


「ここではまずいだろ? 場所を変えよう」


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