お試しから始まる恋

 和室。

 両親の位牌と冬子の位牌が置いてある仏壇の前で、楓子は座って手を合わせていた。


「・・・ごめんね。結局、本当の事は聞けないまま終わってしまった。・・・ちゃんと生きて償ってほしかったけど・・・。でも、これで安らかに眠れる? ・・・」


 位牌の傍に飾ってある冬子の写真に向かって、楓子は語り掛けた。


 マスクを着けていない冬子は楓子とそっくり。

 ショートヘヤーがサラサラしていて魅力的である。



「冬子・・・。柳田君の事、好きだったの? だから手紙を渡そうとしていたの? 」


 手紙・・・

 それが事件の原因になった事だった。

 証拠品の中に手紙は入っていないかった。

 もう11年も経過している為、処分されてしまったのだろうと判断された。


 冬子には交際していた幹夫がいた。

 どうして疾風に手紙を渡そうとしていたのか、それが楓子は疑問でならない。

 しかし、その真相はもう判らなくなってしまった。






 その夜。

 楓子は和室でそのまま眠ってしまった。

 翌朝になり、目を覚ました楓子。


 なんだか体が怠く感じる・・・

 和室で寝てしまったせいだろうか?



 事件も解決して、ずっと殆ど休まず勤務していた楓子は連休を取っていた。


 広い家で一人で過ごす・・・こんな日も悪くないと思う反面、両親や冬子がいた頃を思い出すと寂しさも感じてしまう。


 これからもこの家には自分だけしかいないのかと考える、と今まで感じた事がない不安が襲ってきた・・・。

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