お試しから始まる恋

  その頃。


  いつものように仕事をして帰宅してきた颯に、1通の手紙が届いていた。

 それは純也からの手紙だった。


 家に戻ってソファーに座って、颯は純也からの手紙を見た。


(颯、すまない。11年前、早杉から奪った手紙だ。中は一度も読んでいないし開封もできないまま11年俺が持っていた。・・・お前に返すから後は頼む)


 短い文で書かれている純也からの手紙。


 冬子が描いた手紙は、綺麗な白い封筒に入っていた。


 柳田颯様と、丁寧な文字で書かれている。


 颯は白い封筒を開いて中を読んだ。


(柳田颯様。突然、お手紙なんてごめんなさい。私は、実はあまり声が出ません。病気で声帯を亡くしているからです。なのでだれとも関わらず話もしていません。でも、貴方にどうしても伝えたい事があるので手紙を出しました。
実は私には双子の姉の楓子がいます。時々、学校の近くで待ち合わせして一緒に帰っています。姉は光友高校に通っていて成績優秀でスポーツも万能で、私とは真逆です。双子だから顔はにていますが。そんな姉が、柳田君を見かけてとても気に入っている様子なんです。いつも柳田君の事を私に聞いてくるので学校での貴方の様子を話しています。
それで、こんな事を手紙で頼むのはとても気が引けますが。一度、姉の楓子に会ってもらえませんか? とても優しい姉です。
学校が違うので、なかなかタイミングが合わないかもしれませんが、私が間に入るので是非会ってもらえませんか? お返事は下駄箱に入れて下さい。お願いします。  早杉冬子)
 

 手紙を読み終えると、颯の目が潤んだ。

「・・・そうだったのか。・・・ごめん・・・」


 手紙は冬子が姉の楓子を紹介したいという内容の手紙だった。

 仲の良い姉妹が互いを思いやり、仲を取り持とうとしたようだ。

「心配するな。俺も、楓子に恋していたんだ。・・・あの秋からずっと・・・」

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