私は視えない。僕は話せない。
 彼と出会ったのは、去年の冬。
 近場なら大丈夫だろうと、コンビニで暖かい飲み物を買った帰りのことだ。
 雪が少し溶けてから固まった氷の上で足を滑らせ、尻餅をついた私を、母より早く彼が助け起こしてくれた。
 しかし、彼はそのままで何も言わなかった。

 隣にいた母の言うことには、声が出せない――話せないのだということが分かった。

 彼が、実は家がすぐ近所なのだと知ると、何かと気にかけて母や私を手伝いに来てくれるようになった。
 父と母は、私が幼い頃に離婚してしまっているから、男手は大いに助かっている。
 彼の厚意に甘え、力仕事や私の暇潰しなんかは特に。

 今日みたいに、たまに外へと連れ出しては私の手を離さない。
 転んで怪我でもしたらいけないから。
 彼はそう言うけれど、あの日は路面の状態が悪かったからで…

「いつも、ありがとうございます」

 そんなことは言えず、私はまた感謝の意を述べるばかり。
 これだって本音は本音なのだけれど。

『好きでやってることだから、気にしないで』

「うん」

 頷くと、私の手を取る彼の手に、少し力を込めてみた。
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