きみのひだまりになりたい



「朱里くん……な、何を言ってるか、わかってる……?」


「ああ」


「だって、それって……ずっと一緒にいなくちゃできな……」


「いるよ」


「……え?」


「まひるのそばに、いる。ずっと」




ああ、もう。ずるいんだってば。そんな、不意打ち、何も準備してない。無防備な心にドストレートに刺さる。涙腺も表情筋も、ゆるみきって直せないよ。


熱のたまった顔に、冷えた紙パックをくっつける。かちこちに固まった指先に圧迫され、ストローからみかん色の粒がわずかに飛び散った。

やっちゃった……。前髪がべたべたする。


ジュースの甘ったるさと柑橘の爽やかさが、太陽光に熟されていく。ひときわ匂いが強いところを、朱里くんは笑いながら撫でた。




「まひるもそんなふうになるんだな」


「なるよ。朱里くんがそうさせたんじゃんか」


「はいはい」


「……朱里くんもたいがいバカだよね」


「なんとでも言え」




朱里くんは立ち上がった。きれいに折り合わされた入部届を手に、グラウンドのほうを眺める。瞳の色を淡くし、風を受けた背筋を伸ばした。


わたしの『オレンジ100%』をひと口分けてあげた。いいよ、あとぜんぶ、あげる。特別だよ。


うすい唇がみかん色に濡れると、わたしは赤らんだまま破顔する。朱里くんの空いてるほうの手を、ぎゅうっと包みこんだ。




「わたしも途中までついてく!」


「い、いや、いい」


「ずっと一緒にいなきゃ。でしょ?」




猫顔にも熱が感染した。半分呆れたように焦がれると、つながりを少しずつ深めていく。高鳴る心臓に合わせて、せーので、やさしい光を集めた先に踏み出した。




今日も、あの東屋で、待ってる。

会いに来たら、また、ふたりで。




<END>


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