闇に溺れた天使にキスを。



「今、何か言った?」

彼の手が、撫でるようにして私の頬から顎へと移動する。
そのまま顎を持ち上げられ、視線が交わってしまう。


本当に近い距離。
眼鏡越しに見える彼の目は、楽しそうに細められている。


「……っ」

「ちゃんと目を見て言わないと。
俯いていたら聞こえないよ」


嘘つき、絶対聞こえている。


「ほら、もう一度言おうか」

意地悪だと思っているのに。
優しい声音がそれを覆い隠して、私を誘う。


無理矢理なことはしない。
強引な物言いもしない。

あくまで、優しく誘導する。


だからこそ狂わされる。

抵抗しようだなんて思わないほどに、彼の言葉や行動が優しいから───


「白野さん?」


何も言えない。
せめて視線だけでもと思い、彼から視線を逸らす。

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