闇に溺れた天使にキスを。



けれどその手はすぐ離れてしまい、今度は不安になってしまう。

変な感じ。
彼の行動ひとつひとつに心が動かされる。


そんな私の気持ちを知らないであろう彼は、床に置いていた鞄を手に取った。

それだけでなく───


とっていた眼鏡を再びかけることはせず、鞄にそれを直した。

その時点で、今の彼は“いつも通り”の彼じゃないのだと悟った。


今の彼、というよりは“これからの彼”という言い方のほうが正しいのかもしれない。


これから彼は、危険で闇の多い場所へ行くのだと。


「神田、くん…!」


ほぼ無意識的に。
私は手を伸ばし、彼のシャツを掴んでいた。


「……白野さん?」

少し驚いたように目を見張る、彼の姿。
予想外の行動だったらしい。

私自身も驚いている。
考えるより先に動いていたことに。

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